自分が大事と知って初めて反省できる(2019.12)


ものを言へ言へと仰せられ候ふ。ものを申さぬものは恐ろしきと仰せられ候ふ。信不信ともに、ただものをいへと仰せられ候ふ。ものを申せば心底も聞こえ、また人にも直さるるなり。ただものを申せと仰せられ候ふ。(蓮如上人御一代記聞書)

 「刑務所」にどんなイメージをお持ちでしょうか。
 「罪を犯した代償として苦役を課したり不自由な思いを余儀なくし、罪を反省させ、再び罪を犯さないよう誓わせる」ことが目的だと一般には理解されています。悪いことをしたら懲らしめられるもの。それが厭だから人は罪を犯さないし、ちゃんと反省した人は再び罪を犯さない。そういう人間観が日本では広く共有されているように思います。しかしそれは実際に沿っているでしょうか。
 罪を犯して刑に服し、出所してまた再犯してしまう人が少なからずいます。そんな人には苦役や反省が足りなかったのでしょうか。もしかしたら、「懲罰としての刑務」を見直す必要があるのでは。そんな視点から、今、新たな取り組みが芽吹いています。罰を与える施設ではなく、生き直しを促す施設として。

共同体が回復を

 一月二五日から「プリズン・サークル」というドキュメンタリー映画が全国で公開されます。日本で初めて、刑務所内を二年間にわたって長期取材した記録です。
 カメラが入ったのは「島根あさひ社会復帰促進センター」。開設は二〇〇八年。警備や職業訓練などを民間が担う、官民協働の新しい刑務所です。しかし、その真の新しさは、受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り、更生に向かわせる「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」というプログラムを日本で唯一導入している点にあります。
 TCプログラムは依存症などの治療によく使われる手法で、当事者がグループになって互いに話をし聞き合う中で気づきを誘い、人間的な変革を促すものです。
 七〜八人でひとつの円座になって話し合い、考えます。なぜ自分は今ここにいるのか。被害者へどう思うのか。
 彼らが向き合うのは、犯した罪だけではありません。自分自身の来歴です。幼い頃に経験した貧困、いじめ、虐待、差別などの記憶。痛み、悲しみ、恥辱や怒りといった感情。そして、それらを表現する言葉が彼らの心の奥底から紡ぎ出されます。

自分と向き合ってやっと、罪を知る

 映画では数人の受刑者に注目しています。
 拓也。二二歳。詐欺及び詐欺未遂で刑期は二年四ヶ月です。拓也には、幼い頃の記憶がほとんどありません。施設に預けられて育った彼の記憶に唯一あるのは、母と暮らしたほんの短い間に使っていたシャンプーの香りだけ。自分の感情を殺すことでなんとか生き延び、それにより犯罪に手を染めた彼が、話し合いの中で、目を背けていた自分の負の境涯や感情と向き合うことができていきます。
 真人は二四歳。強盗致傷、窃盗、建造物侵入で刑期八年。真人には、窃盗への罪悪感がありません。悪いということが理解できないのです。しかし話し合いの中で、自分が受けてきた虐待やいじめの経験と向き合うこととなります。自分が「かわいそうな存在」と認識することに耐えられず、それを他への暴力により埋め合わせてきた真人にとって、自らの被害との正対によってはじめて、加害の自覚が生まれたのでした。
 翔は二九歳。傷害致死。名前ではなく番号で呼ばれる刑務所での罵倒される日々の中では、ただ自分を守ることしか考えられませんでした。それがTCプログラムに参加して、名前で呼ばれ、人間らしいコミュ二ケーションがとれる環境になって、それまで溜め込んできたあらゆる感情を吐き出しきったあと、ようやく自分の罪と向き合えるようになってきたと言います。

話すところに自分がいる

 罪を犯した人は程度の差はあれ、不幸な境遇を経験しています。かつて「被害者」だった者が自分を「被害者」と認識できないまま「加害者」になるという連鎖が少なくないのです。
 もちろん、大変な境涯にありながら罪を犯さずに真面目に生きている多くの人からすれば、過去の不幸など勝手な言い訳だとも見えるでしょう。しかし、被害者だった過去の自分への共感や憐憫を持てて初めて、自分が加害してしまった相手への想像力を育て、やっと真の反省に至れることも事実です。
 刑務の目的を「再犯防止」「社会の安寧」に絞った時、被害の連鎖を断つ大きな鍵は、自そして他への共感と想像力にありそうです。事実、TCプログラムに参加した受刑者の出所後の再犯率は、その他の者と比べて明らかに低いという数字も出ています。
 蓮如上人は、常々、「ものを言え、ものを言え」と勧められたと伝えられます。「ものを申さぬは恐ろしき」「ものを申せば心底にあることもよく分かるし、また人にも直してもらえる」と。
 他者と話すことで知らされる自分があります。他者は自分の鏡なのです。(住職)■

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