潤のこと。 (2002.8)


衆水海に入りて一味なるがごとし (教行信証)


 「ねえ、じゅんくんって、大人になっても今のままなの?今のままだったら会社にも行けないじゃない?」
 次男潤と一緒に幼稚園を出て、今も一緒の小学校の同級生マーくんが聞いてきました。潤とマーくんは週一回同じスポーツ教室に通っていて、その日は終了時に強い雨が降っていたのでマーくんのお母さんが車で送ってくれた車内でのことです。
 運転していたマーくんのお母さんはすこし慌てました。マーくんに、あなたは失礼なことを言っているのよ、とたしなめる一方で同乗していた潤の母親(坊守)にごめんなさい、と恐縮されてしまったとのこと。でも、坊守にしてみると、マーくんの質問は少しも不快ではありませんでした。むしろ、潤に興味という以上の気持ちを持ってくれているマーくんの言葉をうれしく聞いたということです。「そうだね、潤も今のままだと困っちゃうよねえ。」と笑って、「でもね、潤もだんだんといろいろなことを出来るようになってはいるんだよ、だから潤の得意なことは何かなあってこれから探していこうって思ってるんだ。よろしくね。」と答えたとか。当の潤はもちろん、どこ吹く風。

自閉症とはこういうものです

 御承知の通り、潤は自閉的傾向の強い子です。
 自閉症とはまだまだその字面から、周囲に心を閉ざした内向的性癖、心因的な情緒障害と思われがちですがそうではありません。むしろとても明るい、快活な様子をみせることの方が多いくらいかもしれません。
 自閉症とは脳の器質的な障害です。脳の中の情報を伝達させる回路がどこかで上手く働かないことにより、次の三つの障害があらわれることを言います。
@社会性の発達の障害
 他の人と関わろうとしないで、排除されてもまったく気にしない、本当のマイペース。と言うとそう悪いことでもなさそうですが、まず、なかなか視線を合わせることをしません。関係性・社会性をつかさどる脳の中の部署が働いていないようです。時には他人と関係を持とうともしますが、相手にしてみれば自分勝手な振る舞いで戸惑われたり。
Aコミニュケーション能力の障害
 他人との会話で、言われたこと、尋ねられたことをそのままオウム返しをする傾向があります。他人に自分の気持ちや要求を言葉で伝えることが苦手で、思い立ったら同じ質問を繰り返して何回答えても納得しません。また、使う言葉の数がなかなか増えません。
B特定の物事へのこだわり
 同じ道順、同じ日課などへのこだわりを持ちます。これらの決まり事に変更が加えられると、パニック状態になることもあります。変化に弱い。また、一度強烈に体験したことは容易に消えることはありません。潤の場合、花火(を連想させるお祭り、ちょうちん等までも)や雷への恐怖はいかんともしがたいものがあります。これじゃ絶対に戦地じゃ役に立たないぞ。いいけど。
 自閉症は前記の症状が程度の差はあれ、組み合わさったものです。原因は不明で、発生率は千人に一人か二人、人種・国籍・生活様式の別には関係なく発生しています。

ヘンでは、ある。

 自閉症は発達障害です。単純に遅れているというわけでもなく発達が非常にアンバランスなのです。芸術や数学方面に突出した才能を見せる例も多くあります。潤も幼稚園年少時には既に街中のあらゆる車を見てはメーカーを言い当てていましたし、小一の今は二桁の掛け算(91×92とか)の答を喜んで覚えています。親としては、そんなことに頭を使うなよー、もっともっと他に覚えることがあるだろーと思っているのですが。
 また、よく誤解されがちなのですが自閉症と知的障害もまた、違います。知的障害がないために却って「すごくヘンな人」と見られがちな自閉症者もいます。映画では『レインマン』や『学校。』、ドラマでは藤井フミヤによる『天使が消えた街』、ともさかりえの『君が教えてくれたこと』など、メディアに載る例も増えましたが、しかし知られていませんよねー。自閉症って症状も十人十色ですので、実は私も良く分かっていません。

慣れますので。

 スポーツ教室の帰りの車中、マーくんのお母さんに気まずい思いをさせたのはこっちが申訳ないような気もしたけれど、もし長男の顕が誰か障害のある子にそういうことを尋ねたらやっぱり恐縮しちゃうかなあ、と坊守は笑っていました。
 やはりポイントは慣れでしょうか。病院や潤の発達をお手伝いして下さる施設に通うことで、様々な障害の子どもたちに接する機会を持ちました。それにより私自身、障害を持つ方への接し方が変わった気もします。
 一時期、障害者を社会で受け入れる中で「障害は個性だ」とか「多様性として認めよう」とか言われたことがあります。しかしこれはどうにも無理がある(ま、時には無理をすることも大事にしたい私ですが)。やっぱり障害は弱点ですよ。でも誰でも大なり小なり弱点や苦手なことは隠し持っているわけで、それがあからさまな状態はある意味ではいい場合もあるわけです。弱点は人と手をつなぐ端緒。まず慣れることから始めよ。ていうか、慣れてください。

尚、自閉症の理解には、次のHPをお薦めします。この項の参考にもさせていただきました。
「あたらしい自閉症の手引き」

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