電気料金を二割減らす方法 (2000.12
われらが身の罪悪の深きほどをも知らず、
如来の御徳の高きことをも知らずして迷えるを、
思い知らせんがため  
(歎異抄)

 寺には朝から様々な営業の電話がかかってきます。コピー機や業務用掃除機や絵画のセールス、商品取り引きや資金運用の勧め、最近多いのがホームページ作成の代行(ちなみに、営業の電話に対しては受話器を取ったのが私であっても「住職は朝から留守なのでお受けできません」とお応えしますので悪しからず)。ユニークなのでは電気料金を節約できる機械の売り込みがありました。これを取りつけると電気料金が三割減らせるとのこと。いかにも胡散臭いなと断ったら、案の定非合法との報道がありました。
 そんな怪しい裏技でなく、お天道様の下で堂々と電気料金を二割以上下げる方法を先日入手しました。教えてくださったのが東京電力にお勤めの方(だから怪しいという話はもちろんありですが)なのでもちろん合法ですよ、そこのお客さん。

魔法の箱

 簡単な機械が必要です。東京電力ではあるモデル地区の家庭を対象にその機械を取り付けてもらいました。すると、それらの家庭の電気使用量がみるみる減っていったというのです。その量は平均(平均、ですよ)で二割!劇的な効果と言わざるをえません。
 その機械の正体は、電気料金のメーターだったのです。室内で現在までの月間電気使用量を料金に換算して表示するもの。たったこれだけで家庭の使用量が減ってしまったのです。各人に無理な節電態勢をとるような指導をしたわけではありません。ただ、目につくところにメーターを設置しただけ。
 今使っている電気がいくらになっているかをリアルタイムで表示されると、否応なく電気使用を意識するようになって、小まめにスイッチを切ることが自然にできるようになるとか。その結果は無理なく二割の減量成功。ダイエットの参考にもなりそうなこのメーター、残念ながらまだ市販はしていないそうです。

「意識化」の威力

 意識すること。あるいは、今まで意識しないことにより見過ごしていた多くのものごとがあったと気づくこと。それはけっこう馬鹿にできないようです。意識するだけで、人は行動を変えます。気づいてみると違う自分がいたりします。
 お葬式の際につきものになっている「清めの塩」を浄土真宗では配りません。「清め」たいというのは自分が汚れてしまったとの思いからでしょうが、亡くなられた大事な知己を汚れたものと見なすのでしょうか。亡くなった方が身をもって教えてくださった厳粛な事実を汚れたものとして払ってしまうのでしょうか。いずれにしてもあまりにも非礼で、あまりにももったいないことです。習慣という名のもとに気にも留めずに見過ごしやり過ごしていた行為が、一つ意識してみると、事実を事実として認めたがらない身勝手な自分を象徴するものだったと気づかされます。
 また、お葬式にうかがうとご家族からよく聞かれるのが「最近お葬式が多くないですか。今日もこの斎場に来るまでに何件も見かけましたが」。それまでは目にしても記憶に残らなかった他人の葬式が、身内にお葬式があると向こうから目に飛び込んでくるというだけなのです。
 実は、他ならぬお釈迦さまがそれと同じ体験をされています。
 お釈迦さまが出家をされたのは、青年期のある日、城から出かけた時に見かけた老人、病人、死人、出家者の姿が心から離れなかったのが直接のきっかけだったと伝えられています。もちろんお釈迦さまが青年になるまでそれらの姿を見たことがなかったわけがありません。毎日毎日見ていても、自分の問題とならないうちは何も心に残っていなかったということでしょう。それがいったん意識化された後の波及は、お釈迦さまお一人の内に留まるものではなかったのです。

じっとしていられない

 親鸞聖人の語録『歎異抄』には「われらが身の罪悪の深きほどをも知らず、如来の御徳の高きことをも知らずして迷えるを、思い知らせんがため」とあります。
 知ろうとしなかったこと、気づかなかったことに、気づく。仏教ではそのことが非常に大切なこととされています。
 というような法話をした明治時代の念仏者、暁烏敏にある青年が「先生、そんなただ気づくだけでは何にもならないのではないですか。やはり、やめるとか直すとか正すよう努力することが大事なのではありませんか」と質問しました。暁烏師は喝破して「お前。自分のすわっとる場所が、糞溜の中だと気づかされたら、気づいたまんまでじっとしとるつもりか。気づきさえすれば、ひとりでに身が飛びすさるだろ。人間はそういうふうになっとるのだ」。          
 念仏は実は、気づけよ、という如来の声そのものです。それが呪文のように扱われがちなのは、いつまでも眠っていたい私たちの性癖ゆえ。まあ眠っていても、電気を垂れ流して無駄な電気料を払っている程度で済んでいたなら笑ってもいられますが。■

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