1996年6月

 延立寺の箱入り娘ならぬ箱入り猫ちゃんのトムは やさしいというか寛容というか猫が出来ているというか。ノラ猫がトムのいる茶の間を横切って台所に入り込み トムのご飯(「エサ」ではありません)を全部食べてしまって ゆうゆうと帰って行ってもべつに怒るでもなく鳴くでもなく、ノラ猫を追っ払う人間達を興味なさそうな目で見ているだけです。「食べたくなったら またもらうからいい」って思っているらしいけど。
 トムちゃん、あなたはトム御用達の缶詰とビスケットしか食べてくれないわがまま娘なんだから あんまりお友達にプレゼントしないで、家計にひびくから。

 毎年暖かくなってくると延立寺のペット以外の生き物、それもあまり有り難くない生き物の多さに驚かされます。私自身けっしてコンクリートジャングルの中で育ったわけではなく 毎年庭に「太郎」という名前のガマ蛙が出てくるような所にいたのですが、延立寺は一味も二味も違います。
 今年は何故か亀虫(通称へっぴり虫)という六角形の臭い虫が大発生して、バルサンを焚いたら佃煮が出来そうなくらい捕れたり、十センチ以上ある大きなムカデが朝起きたら枕元に、はたまた子供を昼寝させようとしたら布団の中にいたり、顕の腕位はありそうな青大将(蛇)が庭をうろうろしていたり。去年は本堂の前の銀木犀の木の中にスズメバチが巣を作ってしまい、市役所に電話して駆除してもらったし、いろいろあります。
 アリさんやカタツムリさんは顕のお友達だけどムカデや青大将とはできれば遊んでほしくないなって思うし、お願いだからガマ蛙だけは出てこないでって思うし。住職や母は「お墓には蚊がいるけど 家の中には入ってこない」って言ってたけど うそばっかりで夏になると私はスカ−トがはけないくらい蚊に刺されて足がぼこぼこになってしまうし。
 皆さん「こんな緑に囲まれた自然いっぱいの中で子供を育てられていいですね」っておっしゃいます。でもね、それはそれでさびしいとか 子供の友達がいないとか ネオンが恋しいとかってことを抜きにしても けっこうたいへんなんですよ。真夏に法事をなさった事のある方は良くご存じでしょうが、うちはとっても暑い家です。涼しそうにみえますが見かけだけで、茶の間や二階は息苦しいほど暑いんです。それで去年の暑さに懲りて延立寺で初めて二階にクーラーをつけたんですが、皆口をそろえて言うことには「今年は冷夏だよ」。いやな事を言うなとは思いながら私もそんな気がするので怒るわけにいきません。

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