2012年12月

 少し前の話になりますが、長女夏菜が部活の剣道で都大会に出場したときのこと。会場は綾瀬の東京武道館。
 こんな機会がまたあるとは思えなかったので、珍しく暇だった長男顕といっしょに、はるばる電車を乗り継いで綾瀬まで。
 山手線は乗るけれど、池袋から先なんてあまり乗らないからけっこうのもの珍しくすいた車内に座っていました。
 そうしたらどこからともなく聞こえてくる車内放送を復唱する声。えっと思って見回すと、ドアのところに立って一字一句間違いなく復唱する少年。いえ、もしかしたら青年。
 幼く見えるけれど、たぶんうちの子たちよりちょっとお兄さん。そしてたぶん、うちの二男潤のように障害を持った青年。
 ニコニコしていたからきっと楽しかったのでしょうし、実際彼は普通に電車を降りていったのですが、障害を持った人たちを見て、ちょっと怖いと思う人は少なくないようです。
 私だって、知っている特別支援学校の子どもたちは怖くないけれど、街中でブツブツ言いながら歩いている老人はちょっとさけて通りますもの。
 電車の中で顕と並んで座っていて、その青年が降りていった後、顕が「かわいいね、英語になるとだまるんだ」と言いました。ああいう子を見てかわいいと思える感性。親バカながらそういう風に育ってくれたこと、ちょっとうれしくなってしまいました。
 その顕が、乗り継ぎが悪いと片道2時間以上かけて大学に通っていたのですが、さすがにキツイと、一人暮らしを始めることになりました。
 場所は友だちから聞いてきて、自分で見に行って気に入った千歳烏山。
 気に入ったアパートが見つかって、いざ引越しということになって。住職が自分でやるというので引越やさんは頼まないで顕の友だちに手伝ってもらってバタバタと。
 立つ鳥後を濁さずと言うけれど、足の踏み場がないとはああいうことだという部屋を残して出ていきました。
 しばらくは行ったり来たりだし、冬休みにもなるから、「あの部屋なんとかしないと全部捨てるぞ」と言って、片づけさせるつもりです。
 義母や友人たちは皆口をそろえて、「直子さん、さびしくなるよ」とうれしそうに言うけれど、たぶんだいじょうぶ。
 最後の子が幼稚園に入園した時も、最後の子が小学校を卒業した時も、皆に「さびしくなるよ」と言われましたがさびしさよりも解放感の方が大きかったから。だってまだまだ手のかかるコが2人いて、一番手のかかる御住職さまがいるんだもの。さびしさよりもやれやれの方が勝ちです。
 どうぞ皆さまよいお年を。(直子)

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