2001年にお薦めしたBooks

斜め読み。でもお薦めしてしまう数々。

 



『伝わる・揺さぶる!文章を書く』山田ズーニー著 PHP新書(2001.11刊)
納得した。高校生対象に小論文の指導を続けてきた著者が「自分を伝える」方法とその意味を解き明かす。常に受け取る他者を意識すること、そして技術を適切に使うことは心を形にすることという本道を丁寧に説いたひとつひとつに、感動さえした。ここ数年で最高の収穫(2001.12)


『何でも買って野郎日誌』日垣 隆著 角川書店(2001.11刊)
腹が据わっている、という点では今真っ先に思い浮かぶ人。公式ウェブの「ガッキィファイター」からもうかがえる、自分の発言に関しては考えられる限りの責任を果たそうとする姿勢は、発言者がとらなければならないある基準を提示してくれている。その基準が非常ーに高いんですけど。(2001.12)


『ルネッサンス』カルロス・ゴーン ダイヤモンド社(2001.10刊)
今の日産に何が足りないのか、という質問に対し、来日してまもなくのゴーン氏は一言、こう答えたという。「フォーカス」。この言葉はいろいろな場面で思い出す。そしてフォーカスを絞れない自分に落ち込むばかり。(2001.12)


『ワンダーゾーン』福本博文著 文藝春秋(2001.11刊)
「ホンモノ」とか「本当の私」を希求している人たちの、あまりお付き合いしたくない日常。「本当」を求めるバカバカしさ(あるいは哀しさ)を一番知っているのはいわゆるヒモと呼ばれる人たちなのでしょう。たまーに見せる優しさだけで「あの人は『本当』は優しい人だから」とつなぎとめるテクニックは人間存在の根幹を見通した技なのだろうと思う。(2001.11)


『アジアの歩き方』野村進著 講談社(2001.11刊)
日本人が、日本がアジアの一員などとは思ってもいないことは、少しアジア各国を歩いてみれば明白です。発見の量や質が
違いすぎますもん。なんでこいつらこうなのかねえ、という場面に5分刻みで出会いながらもなんだか憎めないのはやっぱりアジア人だからなのかもしれない、安直ですけど。(2001.11)


『青空の方法』宮沢章夫著 朝日新聞社(2001.10刊)

起承転起。いったい何が始まったか分からない。ただ、著者が何かに戸惑っていることは分かる。戸惑う著者の戸惑い方に戸惑う読者。何を言い出すんだこの人は、それは違うだろうと読み進んでいくと、結局始めの戸惑いに戻って終る。そもそも青空の方法とは何だ。戸惑うばかりだ。(2001.11)


『いのちの決断』毎日新聞社社会部著 新潮社(2001.9刊)

いま「いのち」こそが「決断」の対象である。正確には「判断」なのだろうが、どちらにしろいのちの事実を「否応なしに受け止めていくもの」では全くなくなった現在にあって、人の苦悩は確実に深まっている。そこに本来は宗教が関わるべきにもかかわらず、宗教者には言葉がない。いやないのは言葉ではなく覚悟なのだが。(2001.9)


『文学を探せ』坪内祐三著 文藝春秋(2001.9刊)

書評のみを読み、その評されている作品を読まないのは書評の正しい読み手とは言い難いだろう。が、書評が「実用」のレベルで消費される昨今、またそのような書評依頼がくる昨今を怒る坪内氏の本書はこれだけで、実に実にスリリングな文芸そのもの。評論のあってほしい姿がここにある。本好き必読。(2001.9)


『勝者もなく、敗者もなく』松原耕二著 幻冬舎(2000.9刊)

冒頭の、おそらくは担当編集者に促されて書いたであろう「託された名前」で涙が溢れた。続く「記者という仕事」「頭取への手紙」も、自分が立ち得る現場を一歩も外さない。その節度がちょっとカッコよすぎるぞ、ではありますが、信頼できるこのテレビマンはTBS『ニュースの森』の編集長です。(2001.9


『ためらいの倫理学〜戦争・性・物語』内田 樹著 冬弓舎

「知性を計量するとき、その人の「真剣さ」や「情報量」や「現場経験」などというものを勘定には入れない。そうではなくて、その人が自分の知っていることをどれくらい疑っているか、自分が見たものをどれくらい信じていないか、自分の善意に紛れ込んでいる欲望をどれくらい意識化できるか、を基準にして判断する」という著者は、物事を批判・評論する際には無自覚に自分を被害者の座に置いてしまうことを警戒します。このきわめて倫理的な態度は名づけて「とほほ主義」。この一見なんとも情けない視点がないところには、伝達しうる言葉はないような気がする昨今です。人前で何事かを話す機会のある人は必読。(2001.6)


『働くことがイヤな人のための本』中島義道著 日本経済新聞社

今、日本で一番本を売る哲学者の最新刊。今さら紹介する必要もないベストセラーをここに挙げたのは、親鸞聖人の引用がたびたびあるからです。この本は単なる怠け者のための本ではなく、仕事に「生きがい」を見出せない社会的「引きこもり」に向けたもの。彼らが陥りがちな「結局人は死んでしまう」「才能の違いはしょうがない」といったごたくに安住する姿を「本願ぼこり」と警告し、「たとひ法然聖人にすかされまいらせても」という決意に理屈をこえた心情を重ね、会社組織の多重構造を「非僧非俗」になぞらえる。ホンネと言うより容赦ない言辞を重ねながら、理不尽な世の中に足を踏み入れる動機を読者から引き出していく手法。これは見事な芸です。 (2001.4)


『神童(全4巻)』さそうあきら著 双葉社

三年前の手塚治虫文化賞優秀賞受賞作品。だからいつでも読めると思って後回しにしていたらいつのまにか新刊書店はもちろん、ブックオフでもお目にかからない。だからマンガは油断できません。天才少女ピアニスト成瀬うたが奏でる音。響きがある世界。どうぞ包まれてください。私、いまさらでもこの作品に出会えたことを感謝します。 (2001.4)


『キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか』北尾トロ著 鉄人社

名著です。
誰もがたぶん思う、「やってみたいけど、ちょっと勇気いるよな」というシーン。もう、本当にどうでもいいこと。著者北尾トロの場合では例えば、「見知らぬ子どもと遊びたい」とか、「激マズ蕎麦屋で味の悪さを指摘したい」とか、「クラス一丸でさんざんイジメた担任教師に謝罪したい」とか。それをえいっとやってしまった彼のレポートは、読みふけってつい電車を乗り過ごしてしまったことさえ嬉しく思えてしまうほど愛しい出来。
言うまでもないですが、本書のテーマは、「関係」です。これほどまでに人と関係を持つことに臆病になってしまった私たちの滑稽さ。それを笑え、笑え、笑え、と身を投じてくれた北尾トロのなんと美しいことよ。(2001.1)
 

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